「ちいさいときに言ってやれんかったから」


知らなかった。
自分だけが知らなかった、
自分がそこまで世に出たら恥ずかしい人間だったなんてこと。


(いっそ他人だと思って、我慢しよう)


こんなことを思ってたのも自分だけだったのか。
私ひとり、筋違いで、冷酷で。


胸のなかに小石がぎゅうぎゅうに詰まってる。
歳を取るごとに、心を曝け出した話ができなくなってしまった。
昔はもっと、言えたと思う。
顔真っ赤にしながらでも、しゃくりあげながらでも、
なんとか言葉にしてぶつけようとしていた。


なんでかな。
もう、話ができない。
何を聞かれても答えられない。
答えなんてないんだ。


私は父のことも母のことも、
うしろめたくて、怖くて、許せなくて、気を遣って、
そしてあんまり、理解ができないんだ。


ただ、涙が出ることだけは、今でもまだ変わってない。