日記を整理した。
「言葉にできないということは、忘れてゆくということなんだな。
と、そう思った。」
ある本に書かれていた、このなんてことはない一文が、
なぜか胸に引っ掛かったまま残ってしまったせいだと思う。


そこに書かれている日々は、もうはるか遠いところにある。
言葉にした時点で、それはもうそれそのものではなくなっている。
二重、三重の薄い膜の向こうに、出来事と感情を見ている。
それでも忘れたくない。


言葉は形をもたず、手に触れることもできず、思い出はどこまでもきれい。
それでいいじゃないか。


これが恋なら、何度でもしたい。


手は、離れる度、繋ぎ直した。
熱を憶えてしまうと、また取り戻したくてしょうがない。
だけど私からは握れない。
だから甲を触れさせる。
この、どうしようもないズルさ。


日が暮れて、部屋に帰る。