周りの人が、何気なく見せてくれる知恵を覚えておきたい。
「あ、今のいいな」とはっとしたそれを、忘れないようにしよう。


例えば。
単調でつまらない時間に、笑いを交える。
用事で人を呼ぶとき、声をかける前に後ろから顔を覗き込む。
長い長い沈黙の後に、最初に息を吐く。
それで流してしまっていい一言にも、ちゃんと切り返す。


自分には足りないことばかりだと思うからひとつずつ。

都会を捨てて、服も捨てて、長靴を履いて動物と暮らす。
もう必要がないと置いてきたものが、
ふと恋しくなるかもしれない自分を不安に思うことはないかって。
くだらない、よこしまなことだろうかでも私は今、
マーク・ジェイコブスがよく似合うあの子と、
そういう話がしたいんだ。

「ちいさいときに言ってやれんかったから」


知らなかった。
自分だけが知らなかった、
自分がそこまで世に出たら恥ずかしい人間だったなんてこと。


(いっそ他人だと思って、我慢しよう)


こんなことを思ってたのも自分だけだったのか。
私ひとり、筋違いで、冷酷で。


胸のなかに小石がぎゅうぎゅうに詰まってる。
歳を取るごとに、心を曝け出した話ができなくなってしまった。
昔はもっと、言えたと思う。
顔真っ赤にしながらでも、しゃくりあげながらでも、
なんとか言葉にしてぶつけようとしていた。


なんでかな。
もう、話ができない。
何を聞かれても答えられない。
答えなんてないんだ。


私は父のことも母のことも、
うしろめたくて、怖くて、許せなくて、気を遣って、
そしてあんまり、理解ができないんだ。


ただ、涙が出ることだけは、今でもまだ変わってない。


未来が決まっているような気のする心地よさを、私は寝起きの頭の中で味わっていた。その感触は、掛けぶとんのようにこれからも私を温めてくれるだろう。
自分に満足してしまうことは、自分に負けることだと思っていた。そしてその時の気分で今を塗り重ね、傷つけては、けっきょく見定めのつかない自分の将来がいつも霧の中にうもれているのを、さもしいような気持ちでにらみつけていた。


自分より長く生きているひとの言う、本当のこと。
だけど、いくら本に会話にとそれを求めても、知った気になるだけで、それは自分のものじゃない。
私は、これから苦しんで、自分で自分にとっての本当のことをみつけていかなくちゃいけない。

相手が見ている自分の姿を、自分の目に映す。
顔の表情とか声とか体の動き、
自分が実はすごくわざとらしい大げさなリアクションを取っていて
相手はそれに引いたり白けたりしていた。
そのことに初めて気付かされる、
という夢を見た。